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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)154号 判決

一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(一) 審決は、却下された第二補正の前の特許請求の範囲の記載に基づいて本願各発明の要旨を認定したものであることは明らかである。

(二) そうすると、もし第二補正の却下が適法といえないならば、審決には本願各発明の要旨の認定について誤りがあることになるので、まず補正却下の適否について検討する。

1 補正却下決定の理由中、第二補正後の本願各発明の要旨が決定認定のとおりのものであり、第一、第二引用例の記載内容が決定認定のものであること(但し、原告は、第二引用例の記載内容についての決定の認定の冒頭「前記と同じ温度で……」とあるは「さらに前記と同じ温度で……」と認定さるべきであり、さらに「充填剤の含有量を一~二五重量%とする旨記載されている」との点については、この重量%は樹脂のみを一〇〇とした場合の充填剤の%であり、樹脂+充填剤を一〇〇とした場合の充填剤の%ではないということを附言した上で認める、というが、これらの点についてはしばらくおく。)、補正発明と第一引用例に記載されたものとの間には少なくとも決定認定のような一致点(第一引用例の表面層が一軸延伸であるとの点を除く。)と相違点があることについては当事者間に争いがない。

2 ところが、原告は、第二補正後の本願各発明は、不透明な積層構造物を得ることを目的とするものであるのに対し、第一引用例のものは透明な積層物を得ることを目的としているから両者は発明の指向するところを異にするのに決定はこの点を看過したと主張するので、この点について検討する。

たしかに、前記補正発明の要旨が示すように、補正発明は不透明積層構造物からなるものであることは明らかであるが、成立に争いのない甲第三号証の一(第一引用例)によれば、第一引用例には、第一引用例の発明が透明な積層物を得ることを目的とする旨の記載はなく、また第一引用例の積層物の用途として包装用フイルム、製図用フイルムが包含されている(甲第三号証の一第三頁第四~五行、第一七~二一行、訳文第九頁第一七~一八行、第一〇頁第七~一〇行)ほか、コンデンサー巻繊維等のような電気的利用(甲第三号証の一第三頁第二二~二四行、訳文第一〇頁第一一~一三行)、磁気記録テープ(甲第三号証の一第三頁第二九~三〇行、訳文第一〇頁第一七行)、プラスチツクまたは金属化プラスチツクフイルムを切断して製造される糸(甲第三号証の一第三頁第三六~三九行、訳文第一一頁第三~五行)などが包含されることが認められるところ、これらの用途に用いられる構造物は製図用フイルムと同様透明である必要はないから、第一引用例の発明が透明な積層構造物を得ることのみを目的とするものとは、とうてい解しえない。

そうすると、補正発明は不透明な積層構造物を得ることを目的としているのに対し、第一引用例のものは透明な積層構造物を得ることを目的とするもので発明の指向が全く異なるという原告の主張は、失当である。

3 つぎに、原告は、第二補正後の本願各発明は、第一引用例および第二引用例にない表面亀裂を有すると主張する。

成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明についての特許出願公告公報)および甲第二号証の二(昭和五二年三月二八日付手続補正書)には「表面亀裂」という用語は見当らないけれども、右甲第二号証の一には「充てん剤を配合して延伸するのでこの紙状層には微細な空孔が発生しており、そのため無延伸フイルムに比べてその紙状性は一層良好である。」(第三欄第二三~二六行と記載され、また甲第二号証の二には、「この微細無機充てん剤配合熱可塑性樹脂フイルムの表面および内部に微細な空孔を発生させ、」(第二頁末行ないし第三頁第二行および第四頁第六~八行)、「前記第二の充てん剤配合熱可塑性樹脂フイルムは一軸延伸された状態にありかつその表面および内部に微細な空孔を有するものである」(特許請求の範囲)(第三頁第一五ないし一九行)と記載されているから、原告のいう「表面亀裂」とは、補正発明における「微細無機充てん剤配合熱可塑性樹脂フイルムの表面の微細な空孔」を意味するにほかならないと解される。

そこで検討するのに、原告は第一引用例の実施例をひいて、第一引用例の表面層は二軸延伸のみであるから表面亀裂は生じないと主張するが、甲第三号証の一によれば、第一引用例にも、「微粉化不活性物質を含む層(表面層―本判決注)は一方向に配向され、他方、残りの層は二軸配向されてもよい。」との記載があり(第二頁第四〇~四三行、訳文第六頁第七~九行)、表面層が一軸延伸のものを含むことは明らかであるから、原告の主張は理由がない。

また、原告は充てん剤の含有量のみならず、延伸温度、延伸率の関係から表面亀裂の有無を検討すべき旨主張するが、前記甲第二号証の一および二をみても、表面亀裂と充てん剤の含有量、延伸温度および延伸倍率の関係について具体的な説明はなく、前出のように「充てん剤を配合して延伸するのでこの紙状層には微細な空孔が発生しており、そのため無延伸フイルムに比べてその紙状性は一層良好である」と説明されているのみである。

しかしながら、念のため補正発明と各引用例の充てん剤の含有量、延伸温度および延伸倍率について検討してみる。

(1) 充てん剤の含有量

前記甲第二号証の二によれば、補正発明の充てん剤の含有量は二〇重量%を超え六五重量%までであり(第三頁第一一~一二行、第四頁第三~四行)、他方、甲第三号証の一によれば、第一引用例の好ましい充てん剤含有量は一ないし二五重量%である(第二頁第七~八行、訳文第五頁第二~三行)。

そうすると、両者の充てん剤の含有量は、二〇重量%を超え、二五重量%までの範囲において一致していることになる。

(2) 延伸温度

甲第二号証の一、二によれば、補正発明の延伸温度については「非溶融状態で加熱延伸して……」(甲第二号証の二第四頁第五~六行)との記載があるのみでそれ以上の記載はなく、他方、第一引用例の延伸温度は、前記甲第三号証の一によれば「フイルムが延伸され得る温度まで加熱する」(第二頁第五五~五六行、同訳文第六頁第一七~一八行)ものであることが認められるから、延伸温度につき両者の間に差異はない。

(3) 延伸倍率

甲第二号証の一、二によれば、補正発明の延伸倍率は少なくとも二・五倍であり(甲第二号証の一第三欄第一三、一四行、同号証の二第四頁第五行)、他方、甲第三号証の一によれば、第一引用例に例示された延伸倍率は三・五倍である(第三頁第六五行、同訳文第一二頁第六行)から、両者の延伸倍率は三・五倍の点で一致する。

このように、補正発明と第一引用例とは、充てん剤の含有量、延伸温度および延伸倍率のいずれの点でも区別し難いものであるから、補正発明にかかる積層構造物が表面亀裂を有する以上、第一引用例の積層構造物もまた表面亀裂を有すると認めるのが相当である。

さらに、原告は第二引用例のものは表面亀裂を有しないと主張する。

たしかに、成立に争いのない甲第三号証の二(第二引用例)によれば、第二引用例のフイルムは「実質的な表面亀裂を伴わずに突起を形成させる……」(甲第三号証の二第五欄三六~三七行、訳文第一五頁第五~六行)と明記されているが、決定が第二引用例を引用した趣旨が「表面」亀裂の点でないことは決定理由をみれば明らかである。したがつて、以上の認定事実に基づけば、第二引用例のフイルムには表面亀裂がないとしても、微細無機充填剤の含量を変更すること並びに延伸によりフイルムの表面および内部に亀裂を生じさせて印刷性を良好にすることが第一引用例および第二引用例の記載に基づいて当業者が容易になし得ることと認められる旨の判断、さらに補正発明のうち第二発明の延伸倍率の要件は延伸倍率として特異な数値とは認められないとした判断は、正当として是認できるものである。(なお、甲第三号証の二には、充てん剤の量について「経験上、使用する粒状物質の量が母体重合体の一~二五重量%の範囲にあるとき、十分な結果が得られる。しかし、本発明の概念内で、ある種の物質をさらに多量用いてもよい。」(第二欄第一六~二一行、訳文第五頁第一~五行)と記載されており、第二引用例の充てん剤の含有量の数値は重合体に対する重量割合で示され、補正発明における数値のようにフイルム全体中の充てん剤の重量割合で示されているものとは異なつており、これを後者のように修正した含有率は本願発明のものと一致しなくなるが、この点は、第一引用例のものが前記認定のとおりである以上、判断の当否を左右しない。)

4 そこで、作用効果の点について検討する。

(1) 印刷性

前記甲第二号証の一、二によれば、本願発明の明細書には、本願発明の積層構造物の印刷性について「印刷性……の点ですぐれた」(甲第二号証の一第五欄第二一行)、「この積層構造体は、その強度、風合、印刷性、鉛筆書き等の点において従来の紙と全く同様の目的に使用することができる」(同第六欄第二三~二五行、同第三九~四一行)、前出補正書には、「印刷可能な……」(甲第二号証の二第三頁第五行、第一三行、第四頁第一〇行)と記載されているのみであり、右の印刷がオフセツト印刷という特定の印刷手段を意味するものであるとは、とうてい解しえない。

また、かりにオフセツト印刷が可能であるとしても、前に述べたように補正発明の積層構造物はその表面亀裂につき第一引用例のものと区別できないから、第一引用例の積層構造物もまたオフセツト印刷が可能ということになり、印刷性の点で両者の間に差異はないことになる。

(2) 強度

たしかに、甲第二号証の一によれば、本願発明が解決しようとした直接的な課題は、充てん剤配合プラスチツクフイルムの強度的欠陥の改善にあることが認められる(甲第二号証の一第二欄第二二行~末行)が、甲第二号証の一、二によれば、本願発明の明細書中には、本願発明の積層構造物の強度について「この発明の合成紙は本質的には基材層と紙状層とからなるものであるが、二軸延伸されて充分な強度(抗張力、引張強度あるいは腰)を有する基材層をこの点の不満足なしかし印書ないし印刷性、光沢、風合等の点ですぐれた充てん剤配合一軸延伸紙状層を組み合わせたことによつて前記の諸欠点は合目的的に解決されている。」(甲第二号証の一第三欄第一七~二三行)と説明されているから、補正発明の積層構造物の強度はもつぱら二軸延伸された熱可塑性樹脂フイルム層(基材層)によるものと解されるところ、第一引用例の積層構造物も二軸延伸された熱可塑性樹脂フイルムからなる層を有するものであることは前に述べたとおりであるから、第一引用例の積層構造物も本願発明の積層構造物と同程度の強度を有するものとみられ、補正発明のものと第一引用例のものとは強度の点で相違するとはいえない。

(3) 風合

甲第二号証の一、二によれば、本願発明の明細書には、本願発明の積層構造物の風合について、「風合等の点ですぐれた……」(甲第二号証の一第三欄第二一行)、「この積層構造体は、その強度、風合、印刷性、鉛筆書き等の点において、従来の紙と全く同様の目的に使用することができる」(同第六欄第二三~二五行)、「この積層構造体は、強度、腰、風合、印刷性等従来の紙と全く同様の目的に使用することが出来た。」(同第六欄第三九~四一行)と記載されているのみで、具体的には何も記載がないところ、補正発明の積層構造物と第一引用例の積層構造物とは、二軸延伸された熱可塑性樹脂フイルムと、充てん剤が配合され一軸延伸されたフイルムとからなる点で同じ構造であり、その表面状態も差異がないことは前述のとおりであるから、両者は風合の点でも差異がないというべきである。

そうすると、第二補正後の本願各発明は第一引用例および第二引用例に記載されたところに基づいて容易に発明できたとしてなされた補正却下決定に違法はないと認められ、第二補正前の特許請求の範囲に基づいてなされた本件審決の要旨認定に誤りはないというべきである。

三 そして、第二補正前の特許請求の範囲に基づいて要旨認定がなされる限り、本願発明について審決認定のような判断が生ずることは原告も明らかに争わないところであり、当裁判所も審決の判断を是認でき、審決に取り消すべき瑕疵はない。

四 よつて、原告の本訴請求を棄却することとする。

〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

1 第二補正前の本願特許請求の範囲

(1) 熱可塑性樹脂のフイルムとその少くとも片面に接合された微細無機充てん剤配合熱可塑性樹脂(無機充てん剤含量は〇・五~六五重量%)のフイルムとからなる積層構造物からなり、前記第一の熱可塑性樹脂フイルムは二軸延伸された状態にあり、前記第二の充てん剤配合熱可塑性樹脂フイルムは一軸延伸された状態にあることを特徴とする、合成紙。

(2) 縦方向に少くとも一・三倍に延伸した熱可塑性樹脂の一軸延伸フイルムの少くとも片面に微細無機充てん剤配合熱可塑性樹脂(無機充てん剤含量は〇・五~六五重量%)を積層し、得られた複合体を横方向に少くとも二・五倍に加熱延伸し、この延伸状態を実質的に保持しながら冷却することを特徴とする、合成紙の製造法。

2 第二補正後の本願特許請求の範囲(傍線部分は第二補正により補正した部分)

(1) 熱可塑性樹脂フイルムとその少くとも片面に接合された微細無機充てん剤配合熱可塑性樹脂(無機充てん剤含量は二〇重量%を越え、六五重量%まで)のフイルムとからなる印刷可能な不透明積層構造物からなり、前記第一の熱可塑性樹脂フイルムは二軸延伸された状態にあり、前記第二の充てん剤配合熱可塑性樹脂フイルムは一軸延伸された状態にありかつその表面および内部に微細な空孔を有するものであることを特徴とする、合成紙。

(2) 縦方向に少くとも一・三倍に延伸した熱可塑性樹脂の一軸延伸フイルムの少くとも片面に微細無機充てん剤配合熱可塑性樹脂(無機充てん剤含量は二〇重量%を越え、六五重量%まで)を積層し、得られた複合体を横方向に少くとも二・五倍に非溶融状態で加熱延伸してこの微細無機充てん剤配合熱可塑性樹脂のフイルムの表面および内部に微細な空孔を発生させ、この延伸状態を実質的に保持しながら冷却して印刷可能な不透明積層構造物を得ることを特徴とする、合成紙の製造法。

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